北面道路からの視線を柔らかく避けつつ、南側に位置する山と中庭が描く里山のような風景を屋内から楽しみたいというお施主様の要望を踏まえ、中庭を囲むコの字型の間取りを考案。屋内と屋外がまるで一体であるかのような庭屋一如(ていおくいちにょ)の世界をコンセプトに掲げた家づくりに取り組んだ。
まるで老舗旅館のようなアプローチを進むと、お客様をもてなす本格数寄屋造りの空間が姿を現す。舞良戸、土庇など細部にわたって数寄屋の作法にのっとった建築が目を引く。その隣には、木製建具の大開口部を備えた広いLDKと茶の間を配置。お客様を招いてお料理もふるまえるセミパブリックな空間だ。内玄関からキッチン、プライベートゾーンへとつながるスムーズな動線は、奥様の要望を反映したもの。動線に沿って手持ちのものがすべて納められるように設計。廊下にはギャラリースペースも備えた。「雨の日は、屋根からしたたりおちる滴を眺めて楽しみたい」というお施主様の風流な要望にも応え、あえて雨どいを付けず、特殊な水切りを設置し、すっきりと仕上げた。
伝統的な日本建築を実践しつつ、耐震等級は3相当、窓にはLOW-Eペアガラスとアルゴンガスを採用し、屋根断熱も万全に行うなど家の性能も向上。ライフスタイルを踏まえた間取りで機能性を高め、家族が安全で暮らしやすい家を実現することに成功した。